薬指の約束は社内秘で
第3章 忘れられない記憶
10日前に依願退職した課長の実家は澄みきった空気がおいしく、緑豊かな場所にあった。
昨年他界した父親の跡を継ぎ脱サラ農家をする為に、それまで暮らしていた都内のマンションは売り払う予定らしい。

そんな課長の送別会は盛大に終えたばかりだけど、そこはやっぱり人柄だよね。

誰が言い出したのか、『まだ送りたりない!』と声があがり、週末を使って東京から新幹線で1時間かかる課長の家に、課のみんなで押しかけていた。

「いやいやー。こんな田舎まで来てくれるなんて」

課長は頬を緩めて玄関先にスリッパを並べてくれる。

3課に新しくきた課長も仕事ができて有能な人だけど。やっぱり松田(マツダ)課長の笑顔には、ほっこりしちゃうな。

今年還暦を迎える自分の父親より5歳年下の松田課長に淡い気持ちはないけど、元気そうな笑顔に癒される。
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