〜双子の憂鬱〜
大河内の力が緩んだ。
その隙に、腕を振り払い走り出す。
ホテルの出口へ向かい、振り向かずに走った。
手ぶらだったから、タクシーなんか乗れない。
だからがむしゃらに走り続けた。
ヒールで走るのなんて久しぶりだ。
転ばずに走れるもんだな、なんて考えて。
ゆっくりと足が止まる。
はぁ、はぁ、と息をついて落ち着こうとしてみるけれど。
思い出す、彼の声。
初めて聞いた優しげな声。
自分以外の女性を名前で呼んだ。
それがこんなにも辛いなんて。