〜双子の憂鬱〜
目の前にある極上の食事。
色気より食い気、とはよく言ったものだと由有は思う。
目の前に居る男が唖然とした表情を見せている。
分かっている。
分かってはいるのだが。
「す・・・っごく美味しいっ!」
あまりの旨さに食欲が止まらない。
「は、よかった。食べたいものがあったら注文するといい。」
ホッとしたように表情を崩し、大河内はスタッフに声をかけた。
「陸」
呼ばれて厨房から出て来たのは、柔らかい表情をした色白の男性。
「何、大吾。」
白いコックコートを着た彼は、大河内の側に寄り微笑む。
「紹介する、俺の高校の同級生でこのレストランのオーナーシェフ、二宮 陸。
陸、こっちは今俺のウチを管理してくれてる若槻 由有さん。」
慌ててナプキンで口元を拭い、立ち上がる。
「お邪魔してます、若槻です。お料理、すっごく美味しいです!」
一気にまくしたてる様に言うと、目の前に差し出された手が見えた。
「ありがとう、二宮です。よろしくね、ユウさん。」
手を重ねると、ヒンヤリとしたその白い手に力がこもる。
「お休みの邪魔してしまって申し訳ないです。」
ぺこりと頭を下げたが、彼はいえいえ、と優しく返した。
「美味しそうに食べてもらえるならいいんですよ。しかし・・・まさか、大吾が女性を連れて来るとは思わなくて驚きました。」
そう言って意地悪そうに笑った彼は、とてもじゃないけど大河内と同い年には見えなかった。