叙情
そして、玄関を閉める音、鍵を閉める音が
家中に響き渡った。


今しか逃げれない。


逃げないと・・・


必死で体をよじらせ
テープを解こうとするけれど

何重にも巻かれたテープが
簡単に外れるはずもなく

唯一、口元のテープだけが
畳にこすりつけるようにして剥がれた。


叫ぶ・・?


でも、叫んでも

このアパートの人は

ほとんど知らないに等しく

この時間に家にいる人なんて・・・

それに、鍵が閉められてるわけで・・・


絶望すら感じた。


でも、あの男に抱かれるなんて

絶対嫌。嫌、嫌。



寝転んだまま固定された足で
思い切りふすまを何度も蹴り込んだ。


この音で誰か気づいてくれたら
どんなにいいか・・・とすら思うけど


私に、そんな運があるわけないと分かっている。


だから、必死で蹴って、蹴って


もう、パンツ丸出しでも
どうでもいい。

スカートがめくれ上がったまま


ふすまをぶち壊した。


そのまま体のバランスを壁でとり

少しずつ少しずつ電話との距離を縮めていく。
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