となりにきて。
「さくら、の アパート?」
桜野アパートと命名されていた、新しいアパート。
このアパートを見たことも聞いたこともなかったのは俺のバイトが忙しくて最近はこっちの住宅街に来ることがパタリとなくなっていたから。
「悠くんかい?」
突然懐かしいあの声が聞こえた。
あぁ、そういえば婆ちゃんの駄菓子屋さんがここにあったんだっけ?
「婆ちゃん、久しぶりだな。」
「お前さんも随分と男前になったもんだよ、昔は駿くんとよくここに来てたかね…」
婆ちゃんは目を細めて微笑する。
婆ちゃんとは血は繋がりはないし特別な関わりはないけどそれでも婆ちゃんは俺たちを、ここの地域の子供たちを、孫のように可愛がってくれた。
「婆ちゃんはね、ここをもう引っ越すんだよ。だけど悠くんと駿くんだけ別れの挨拶がまだでね…すまないね、ほんと。」
いつも笑っていた婆ちゃんの姿としては考えられないほど弱弱しい姿だ。
「そっか…」
「そのかわり、このアパートにかわい子ちゃんが越してくるからそのときは町の案内頼むよ。」
また目を細めて婆ちゃんは笑う。
「了解したよ」
婆ちゃんはシロタが退屈そうだからと言ってその場で別れを告げた。
かわい子ちゃん…ねぇ…