ワンコそば
 彼女を背にしておどおどしている少年に白いタオルが投げかけられた。

使い古しのごわごわした手触りのタオルなのに温かく感じ、投げられた方向を見るとあのおやじが立っていた。

少年の脇をタオルを巻いた少女が通り過ぎていく。

細く薄い肩に目を奪われる。

おやじはバケツを目の前にがしゃんと音をたてて置いた。

「服はこの中に入れろ。あいつがまとめて洗濯するから」

そういって奥へと行ってしまった。

ぽつんと残された少年は彼女の着ていた抜け殻をバケツへ入れる。

それから自分の濡れた服もバケツへ入れたが、さすがにパンツまでは入れられない。

玄関でパンツ1丁になると腰にタオルを巻いた。

来客が来るのではないかとひやひやしながら。

土岐枝家の玄関は木のいい匂いがした。

くしゅんっ

体が震えだした頃、少女が頬を紅潮させて「おまたせ!」と顔を出した。

血色がよく明るい笑顔にどきりとさせられた。

「お湯も溜まったから、早く入って!」

ぐいぐいと背中を押され浴室へと案内される。

体をきれいに洗ってからたっぷりと張られた湯を堪能させてもらった。

「久しぶりの湯だ…」

ユニットバスの多い昨今、タイル張りの浴室で温かい湯につかり手足を伸ばす。

不意に涙がこぼれた。



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