ワンコそば
 風呂から上がると新品の(おやじのものと思われる)下着とスウェットが置いてある。

その上にあるタオルは柔軟剤のきいた柔らかいタオルだった。

心地よく脱衣室を出ると居間の方から親子の言い争う声が聞こえてきた。

「あれはいったいどういうことだ!」

「びしょ濡れだったんだぞ!あのままほっとけっていうの?薄情者!」

「薄情って、親に向かって…!」

「あのまま放っておいてあの子がもし次の日肺炎にでもなって隔離された部屋で余命幾ばくかを過ごす羽目になったら父ちゃん呪い殺されるぞ!」

「父ちゃん関係ないでしょうが!」

自分のことを言い争っているんだろうと、少年は容易に想像がついた。

当たり前だが迷惑がられている。二人の会話を静かに聞き耳立てていると、

ぐぅ…

こんな時にタイミングが悪い。

腹を抑えた。

居間の戸は半分ほど空いていたから親子の視線が一斉に少年に集まった。

「お風呂、お借りしました」

気まずそうに一礼をする。

おやじが顎で少年の座る席をしゃくる。

うう、こわいっ!

座布団を敷かれた場所に腰を下ろし、そうっとおやじを見上げると筋肉質な体つきが格闘家をも思わせる。

このおっさんなら一人で熊とも戦えるだろうよ?ワニだって捕獲できるだろうよ?

そんなくだらないことが連想できた。
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