ワンコそば
 黒い雲が空を覆い、強い雨が夕刻より降り続く住宅街。

一方通行の狭い路地に一人の少年がうずくまっている。

なぜ家にも入らず家の門の前でびしょ濡れているのか、帰宅途中の人々は不思議に思いながらも関わらないように避けて通っていく。

少年は微動だにせず、一点を見つめているようにもみえるが、濡れた前髪が顔を覆い表情がわからない。

ただ、異様な雰囲気だけを醸し出していた。

 辺りが暗くなるほどに少年は興奮してきた。

落ち着け、大丈夫だ。何度もシュミレーションしてきたのだから。

そう自分に言い聞かせて上着のポケットに忍ばせたバタフライナイフを手探りする。

すぐに刃を向けられるように形状を確認する。

これからやろうとすることを思い描く度に自然と笑みがこぼれた。

帰宅したあいつは自分を見てどんな顔をするだろう。

汚いものを見るような目を向けてそのまま自分に背を向けるだろうか?

こんなところで何をしているんだ、と父親面するだろうか?

どちらにしても隙を見せた一瞬であいつの心臓にお気に入りのこのナイフを突き刺してやるんだ。

一刺しで絶命は無理だろう。倒れこむ父親を見下ろしてこう言うんだ。


「これで母さんとまた暮らせるよ」

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