ワンコそば
 *

 こんな大雨、予想外だ!

文句を言ったところでどうしようもない雨風に、傘を傾けながら少女は家路を急ぐ。

ズボンの裾に飛び散る雨水が彼女の機嫌を一層悪くさせた。
 
ふと、視界をふさぐ傘の脇から靴が見えた。

少女は思わず足を止め、道路に靴が置いてあるのではなく人がしゃがみこんでいることを確認した。

門扉横のブロック塀に背をつけてしゃがみ込む男の子。

全身は雨に濡れ、黒く長い前髪が彼の表情を覆う。

背は高そうだが痩せていて見た目は中学生くらいだろう。

羽織っているパーカーのポケットに手を入れて何かを握ったまま身動き一つしない。

纏う空気は殺気に満ちていて近寄りがたい。

通り魔?

少女はごくりと唾を飲み込んだ。

関わるのは危険かと思いながらも土砂降りの雨を堪え忍んでるかのようにも見えるこの少年を放っておくことができなかった。

少女は身構えながら彼に傘を差し出した。

彼の頭上だけ雨が止む。

少年が顔を上げた。

切れ長の細く吊り上がった目が少女をとらえた。

瞳が怪しく光る。
< 3 / 15 >

この作品をシェア

pagetop