ワンコそば
 次の瞬間、少女は咄嗟に後ろへ飛び退いた。

赤いジャンプ傘の石突を少年に向けて間合いを測る。

少年はポケットから手を出し、銀色の物体を器用に振り回した。

彼の右手には刃渡り5センチほどのバタフライナイフが握られていた。

二人の間に緊張感が走る。

くそ、傘なんか差し出すんじゃなかった!

少女は膝を少し曲げ、少年の次の動きに柔軟に対応できるように構えを取るが、少年はその場から立ち上がろうとしなかった。

「消えろ!」

少年は、少女を睨み付けたまま低い声で脅す。

なんだこいつ?かっこつけてるけど座りすぎて尻が痛くて立てないんじゃね?

武道を少しばかりたしなむ彼女にとって、普段の練習の成果を試してみたいという欲に駆られ、少年を挑発してみたくなった。

「かっこいいナイフだね?それ、なんていうの?」

少年はその場から動こうともせずに睨み付けている。

「ちょっと見せてよ!」

少女が左手で銀色のナイフに触れようとすると、ナイフが半円の軌道を描いた。

少年が持っていたバタフライナイフを振り回したのだ。

少女は後ろに飛び退き、右手に持っていたジャンプ傘を少年の右腕に目がけて思いきり振り下ろした。

ナイフが金属音を立てて地面に転がる。

少女はすぐに手を伸ばしナイフを拾い上げた。

「返せよ!」

「通り魔撃退!お手柄中学生!…なんちゃって」

怒りを露わにした少年の前で少女は赤い舌を出した。
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