ワンコそば
 馬鹿にされたのがさらに癇に障ったのか少年がつかみかかってきた。

「返せ!」

「や~だよ。危ないもの。あんた素手でも十分猟奇的だよ!」

「うるさい!お前には関係ないだろ!」

「関係ない子にナイフ向けたのだあれ?」

ムキになる少年はますます子供っぽく、少女は面白くて仕方ないという顔で彼を見た。

顔を紅潮させた少年がナイフを奪い取ろうと覆いかぶさったその瞬間ー

どさっ。

少年は背中から地面に叩きつけられ、雨空を見上げながら呆然とした。

何が起こったのか理解できないという表情だ。

「柔道は6年生までやってました」

目をぱちくりさせる少年を見下ろし、少女はピースサインをしてみせた。

「こんなところにずっといたら風邪ひくよ?家族が心配するよ?」

凶器も狂気も奪われ、少年は道端で大の字になったままか細い声を出した。

「邪魔しないでくれよ…」

雨なのか泣いているのかわからない。

彼の頭の前で傘を差したまま少女はポケットからタオルハンカチを取り出した。

泥で汚れた彼の顔を拭ってやると少年は何の抵抗もしなかった。

「誰かを待っていたんだろう?」

少女は母親のような優しい笑顔になった。

ああ、そうだとばかりに少年はゆっくりと起き上がった。

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