ワンコそば
 少年は力なく歩き、門扉を開けた。

「こんなに泥だらけで帰ったら母ちゃんに叱られるね?」

少年の後ろ姿に声をかける。

「叱られない。僕が帰ったことも、今僕が家にいないことも気づかれない」

少年の両肩が小刻みに揺れていた。

彼が孤独に雨に濡れていても全く気にも留める様子のない家は、玄関に明かりが灯っている。

この家で、彼はどんな存在なのだろう?

「服とかどうすんだ?」

「…」

彼は何も答えない。

このまま家に入った彼は、その後どうするのだろう?

今日が思いとどまっただけで何も変わらないのではないか?

少女はこの少年のことが不安でたまらなかった。

せめて温かい飯でも食べさせてやりたいーーそんなことを思った。

「家へ来るか?」

あたしの問いに彼はピクリと反応してゆっくりと振り向いた。

「どこへ?」

「だからあたしの家だよ」

信じられないと大きく目を見開き少年がまっすぐにあたしを見つめた。

背はあたしより頭一つ大きくて目が細くて顔が小さい。

「家に帰らなくても心配されないんだろう?」

あたしは目を細めてにいっと笑った。
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