宵待人
「先生、……僕は先生のお側にいることを誇りとしています」
少年が持ってきた錠剤を口に含み、少年から手渡された水で胃に押し込む。何か固いものが咽を下る違和感が一瞬だけ訪れ、男はただ無言に少年を見詰めた。
「……間もなく正午の鐘が鳴ります。お昼にしましょう」
少年は言うと座敷を出て行く。
男は縁側から立ち上がると未だ遊びに興じる子ども達を見遣り窓を閉めた。
「……」
「今日は冷奴と乾麺です。先生、お好きでしょう? 」
居間の台所で何やら作業する少年は、割烹着に頭巾という格好で男に語り掛ける。
「緑茶とお抹茶、どちらがいいですか? 」
再び男に語り掛ける少年は茶筅を棚から取り出すと抹茶用の茶碗を運ぶ。
「温めでもよろしいですか? 」
問掛ける口調は優しく、男はただ静かに頷く。簡略化した作法で抹茶を点てた少年は男の座る場処まで来ると正面が男に向くように茶碗を回した。
「清流と雲、だそうです」
茶碗に描かれた模様を説明すると、自分の分の茶碗とめんつゆを持って来る少年に男は視線を向ける。
「先生の隣なんて、恐れ多いです」
茶碗とつゆを持ち、少年は目を伏せる。その瞳には尊敬や憧憬よりも、恋慕や恥じらいが強く写っていた。