宵待人
つゆを注ぐだけの音が室内に響き、少年と男は並んで座っていた。
「……それでは、頂きます」
「……」
少年は言うと乾麺に箸を付ける。その仕種はとても美しく、少年の小さな唇が麺を啜る度、男は黙って少年を見詰めた。
「美味しい……先生は召し上がらないんですか? 」
まじまじと形の良い、小振りな唇を見詰めていたからだろうか、少年は不思議そうに首を傾げ男を見る。
「お皿にお取り致しますか……? 」
つゆを入れる茶碗を取り、麺を入れる少年。その間、男は少年の点てた抹茶を飲みながら少年の動作に見入っていた。
「……はい、どうぞ」
適度に盛り付けられた麺は天かすの薄化粧で可憐な様子へと変わり、元来の素朴さと相成って魅力的に見える。
その静謐なものを、少年は純粋な眼差しで男の前に置いた。
「……」
男はただ黙って少年が装った乾麺を口にする。男が乾麺を食している間、少年は一言も喋ることなく、真っ直ぐに男を見詰めていた。