秘め恋*story2~学校で…~
「今回は本当に申し訳ありませんでした。
隆にはよく言っておきますので。」
ここにいたらダメ。
佐伯先生の優しさに頼りそうになってしまう。
そう思い、スッとソファーから立ち上がりもう一度頭を下げて生徒指導室の入り口へ足を向けた。
でも、その時……………
「すみません。」
ーーーーーーパシッ。
手首に感じる夫以外の男の手。
え、何で。
びっくりして振り返ろうとした…でもその前に動きが封じられる。
「さ、佐伯先生…っ?」
「すみません、
嫌だったら、突き飛ばしてください。」
「そ、そんな…」
後ろから抱き締められる。
背中に佐伯先生の逞しい胸板を感じ、一気に胸が騒ぎ出す。
男の人からこうして抱き締められるのなんて、いつ振りだろう。
佐伯先生に抱き締められてる。
嫌なわけがない。
…この腕を拒むなんて出来っこない。
「自分の教え子の保護者さんなのに…
その…」
耳元で佐伯先生の少し躊躇いがちな声。
私は優しく抱き締められてる腕に触れると、
静かに振り返った。
向き合った私と佐伯先生…
背が高い先生を私はゆっくり見上げた。
佐伯先生は私を見つめると、静かにこう言った。
「お母さんなんて呼べません。
名前で呼んでもいいですか?」
その声にまだ不安さを感じる。
私は優しく微笑むと頷き、“有子”と名乗った。
私の意志が伝わったのか、佐伯先生は嬉しそうに頬を緩めると言葉を続けた。
「たまにあのスーパーで見かけてて、気になっていたんです。それで、その後保護者会で隆くんのお母さんだって、知って。」
「そうだったんですか。」
じゃあ、疲れた顔…見られちゃったかもしれない。
「有子さん、あなたには旦那さんがいる、
隆くんというお子さんもいる…あなたの幸せを壊しちゃいけない…でも、気持ちが止まらなかった。」
そう真剣な眼差しで見つめられた私は、佐伯先生の素直で真っ直ぐな想いを感じた。
釣られるように自然と口から本音をこぼした。
「夫がいても、子供がいても、
幸せを感じられない私は…妻として母として、失格なのかしら…」
誰にも言ったことのない本音。
きっと口にしてはいけなかった本音。