初恋スクランブル
「誰が、言うかよ・・・。」
「教えてくれてもいいじゃない。」
そこで自分かも知れないと考えないのが彩夏らしい。
「それに、私の好きな人は知っているくせに私が時雨の好きな人を知らないのは気に入らないわ。」
悔しそうに言う彩夏に俺は複雑な気分になった。
彩夏が悠樹のことを好きだと気づいたのは意外にも早かった。
入学して直ぐに俺は彩夏の隣で彩夏を人目見てこいつは馬鹿そうだと思った。
そして、関わっていくと本当に馬鹿で不器用だと知った。
そんな不器用さもいいか・・・と思い始めた時に悠樹が出てきた。
彩夏は最初は悠樹のことを何とも思っていなかったみたいだけど、いつからか悠樹のことを目で追っていてたまに彩夏の親友の山瀬が悠樹と話しているのを見ると彩夏は悲しそうな顔をしていた。
そんな彩夏の顔を見て、あぁ・・・こいつは悠樹が好きなんだなとどこか他人事として思った。
そんな中、俺が決定的に彩夏を好きだと気づいたのは彩夏の涙を見た時だった。
誰もいない図書室で涙を流している姿をたまたま見てしまった時、俺なら泣かせたりなんかしない・・・と思ってしまった。
その事がきっかけで俺は彩夏を好きになり、今も彩夏の恋を邪魔している。
親友の恋を応援するか、好きな人の恋を応援するかを俺だって彩夏のように悩んでいる。
二人共に幸せになってほしいと思っているけど・・・それは無理で、俺もそこまで人としてできていない。
そして決断が出来ないまま高校三年になり彩夏の恋を邪魔したりさっきのように応援したりを繰り返している。
往生際が悪いって言うんだろうな・・・。
「彩夏が俺の好きな人を知っても意味なんか無いだろ。」
「意味ならあるわよ。時雨をからかう材料としては最適じゃない。」
「お前な・・・。」
クスクスと笑う彩夏に俺は眉間に皺を寄せた。