レインドロップ
「おい、起きろ」
起きないとわかっていても、とりあえず言ってみる。
「…ん……」
起きる気配はない。
「おいこらブス」
今度は軽く頬を叩いたりつねったりしてみる。
「…っふ……ん…」
全然起きねぇ…
もう置いて帰るか。
頬から手を離して踵を返そうとすると、指に何かが触れた。
……あり得ねー…
完全に寝ているのにも関わらず、千里が俺の人差し指を握っている。
いや、起きてんのか?からかってんのか?
「おい…千……」
「蒼ちゃん……」
一瞬、息が止まった。
俺の名前を呼ぶ、小さな、蚊の鳴くような声が確かに聞こえた。
起きているのかと思えば、聞こえてくる呼吸はすーすーと規則正しいもの。
指を引き抜こうとすると
「…ん…やだ…っ」
俺の指を強く握り返す。
もう、限界だった。
──バシッ!
「…ったい!」
開いていた手で千里の頭を思い切りはたく。
「さっさと起きろ!」
「ん?蒼ちゃん!?起こしてくれるならもっと丁寧にやってよ!」
「うっせぇ!」
お前が悪い。
お前がいけない。
そんな可愛いこと……
‘ただの幼なじみのまま’なんて……もう無理だ