月の女神

気を付けなければと思いつつ

彼女も猫の設定に困っている顔を見て、その姿がかわいらしくて思わず笑ってしまいそうになる。


自分の顔を隠すために、テーブルへと戻る。


彼女も、読んでいた本を元に戻して机に寄ってきた。

飲もうとコップを両手で持った彼女は、パッとすぐに手を放す。

びっくりしたような顔と、反射的な動き。

何気なく様子を見ていた僕は、はっとする。

「すみません、忘れてました、猫舌……!」


熱いから気を付けてって言うのも忘れてた。


沸いたばかりのお湯を使ったんだ。かなり熱かっただろう。


自分の配慮のなさに申し訳なくなる。

「氷入れてちょっと冷ましましょうか?」

そうすれば、すぐに飲めるから。

「…いい、いいです」


氷を取りに行こうとした僕を制止した彼女に、大丈夫かなと思いつつ眺める。


彼女はコップの中を見つめたまま、パタパタと手でホットミルクを仰いでる。

その姿がとても可愛くて思わずにやけてしまった。


……あ、そうだ。



「……僕は早川 陽太と言います」


一口、コーヒーを飲んだ後、彼女に向けて自己紹介する。
< 33 / 60 >

この作品をシェア

pagetop