月の女神
そういえば
まだちゃんと挨拶をしていなかったなと思って。
「君は?」
本当は知っているけれど…。
知っている、というか名前が気になって調べたと言った方が正しいけれど。
名前を聞くと、彼女は俯いた。
怪しい男に簡単に名前を教えていいか悩んでるのかと思ったけれど、そんな心配もすぐに消える。
「……るな」
ぽつり、と。小さな声で彼女は自分の名前を教えてくれた。
るな。
「……るな、か。いい名前だね」
あの時も思った気持ちを彼女に伝える。
とても、素敵な名前だ。
彼女はあまり気にしていないのかコップの中を見つめたまま。
――君は、知ってる?
ご両親がどんな由来で君にその名前を付けたのかは知らないけれど、その名前には素敵な意味があるってこと。
知ってるなら、そのままいい名前だねって言いたかった。
知らないなら、教えてあげたかった。
「―――『月の女神』って意味なんだ」
知ってるかな?と思いながら声をかけてみれば、ゆっくりと顔を上げた彼女は「月の…女神?」と聞き返すように僕に聞いてきた。