月の女神







「……彼女でもできた?」

「えっ!?」

唐突に真っ直ぐ視線を向けられて聞かれた言葉。思わず飲んでいたコーヒーを吹き出しそうになった。


というか、少し口からコップに逆戻りしてしまった。それを正面から見ていた結真はあからさまに顔をゆがめて「汚な…」と呟く。


「な、なんで」

「や、最近幸せそーだし。何かいいことあったかなって」

そんなに動揺することかよ、といいながらティッシュを渡されて、それで口を拭う。

僕たち以外誰もいない資料室。

僕しかいないって分かってたから、結真もわざわざ数学準備室からここに来たんだろうけれど。


時間割の入れ替わりを頼まれて空き時間ができたらしい。


それにしても。


「観察力すご…」



「で? どーなの」


頬杖をついて、見定めるように僕を見る結真。


どうしようかと言葉を探す僕に、結真は待っていたけれど、飽きたのか小さく息を吐きだした。



「ま、それはないか。陽太は誰だっけ…あの子。英語科の子が好きなんだもんね」

「っ、ちょっと!」
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