月の女神
☽
「……彼女でもできた?」
「えっ!?」
唐突に真っ直ぐ視線を向けられて聞かれた言葉。思わず飲んでいたコーヒーを吹き出しそうになった。
というか、少し口からコップに逆戻りしてしまった。それを正面から見ていた結真はあからさまに顔をゆがめて「汚な…」と呟く。
「な、なんで」
「や、最近幸せそーだし。何かいいことあったかなって」
そんなに動揺することかよ、といいながらティッシュを渡されて、それで口を拭う。
僕たち以外誰もいない資料室。
僕しかいないって分かってたから、結真もわざわざ数学準備室からここに来たんだろうけれど。
時間割の入れ替わりを頼まれて空き時間ができたらしい。
それにしても。
「観察力すご…」
「で? どーなの」
頬杖をついて、見定めるように僕を見る結真。
どうしようかと言葉を探す僕に、結真は待っていたけれど、飽きたのか小さく息を吐きだした。
「ま、それはないか。陽太は誰だっけ…あの子。英語科の子が好きなんだもんね」
「っ、ちょっと!」