月の女神
「書きたくない人は書かなくていいので、そのまま提出してください」
…本当は、何か一言でも書いてくれるとありがたいけど。
僕の言った一言で、シャーペンを置く人がちらほら。
少しだけ待てば、シャーペンを置く人が増えてきた。
「ごめんね。後ろから持ってきてください。出した人はもう終わっていいよ」
その言葉に後ろの人が回収を始めて、ガタガタと席を立って教室を出て行く人。
友達の席へと移動する人。
「ありがとう」
回収してくれた子にお礼を言って受け取る。
一瞬だけ見える各列の一番上の用紙には
白紙だったり、
一瞬でも充分読むことのできるたった一行。
「わかりにくかった。」などという率直な意見。
…まぁそうだろうね。
分かってはいるけれど、やっぱり。心は重くなる。
……全部回収できたかな。
回収してきてくれた生徒が途切れて、トントンと机の上でプリントを揃えてから教室を見渡す。
……と。
バラバラに動き回る生徒がいる中、一列だけ。
みんなが後ろを向いている列が目に入った。