真っ暗な世界で
少し残念そうで、少し嬉しそうな不気味な声。


紛れもなく、私たちをゆうかいした男だった。


茉莉は恐怖で声も出せない。


「…おいで?」


「いやぁぁぁぁぁぁぁあ!!」


私たちは茉莉の泣き叫ぶ声に身を固くした。そして、手探りで壁へと後ずさった。


後ずさった時、夏希ちゃんの手が私の手にふれる。そして、互いに庇うように体を抱き締めあった。


パタン………


茉莉が向かった扉とは違う方向の扉が閉まる音がする。


あぁ………。茉莉が連れていかれてしまった。


茉莉と男がその部屋に入ると、1分もしないうちに茉莉泣き叫ぶ声がピタリと止まった。


それは、茉莉の死を意味していた。


私は、人が死んでいく場面に出くわすのが初めてで、中々体の震えが止まらない。目隠しが涙で濡れていく。


「………っ、茉莉、茉莉ぃ…………」


まだ震える体で私を抱き締めながら小さな嗚咽をもらす夏希ちゃん。


私はそこで、初めて知った。


夏希ちゃんは、無理してたんだ………。必死に明るくしてたんだ………。


私は夏希ちゃんを強く抱き締めた。


「大丈夫、だよ、夏希ちゃん………」


もう、無理なんかしないでいいよ。


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