真っ暗な世界で
「……ル……ハ……ハル!!」


甲高い声が私の名前を泣きそうになりながら叫んでる。


心配、しなくてもいいのに。


そう心の中で悪態をついても、どこか温かい。


『榛ちゃん……』


夏希ちゃんが呼んでる。


早く目を開けなきゃ。


まだ重たい瞼をやっと思いであげた。


それと同時に私を呼ぶ声がはっきり聞こえ、背中に痛みが走る。


「ハル!!」


「…………っ」


「良かった!今、土方呼んでくるから!!」


咲洲は慌ただしく何処かに行ってしまった。


まぁ、土方さんの部屋だと思うけど。


瞼を開け閉めしてみるけど、相変わらず視界は真っ暗で、目を開けている感覚は瞼を開けていることでしか分からない。


気を失う直前、どうして咲洲を夏希ちゃんと勘違いしたのか、どうして、咲洲が苦手なのか、久し振りにあの時の夢を見て、分かった。


咲洲は、どことなく夏希ちゃんに似てるんだ。生きるために虚勢をはり続け、仲間を大切に想うところが。


夏希ちゃんを思い出すたび、私にどうしようもない罪悪感が襲ってくる。だから、夏希ちゃんと雰囲気の似ている咲洲がなんとなく苦手だったんだ。


それにしても…………背中、痛いな。


浪士に斬られた背中は、熱を持ったようにジンジンとつねに脈打っている。


背中でこんなに痛いんだから、腹を斬られたらこんなもんじゃないんだろう。今度からはきちんと一度で逝かせてあげられるようにしよう。


しばらくすると、数人の足音が聞こえてきた。足音からすると、土方さん、咲洲、近藤さん、斎藤さん、沖田さんといったところだろう。


「春!」


「春くんっ!」


「春っ!!」


「春くん!」


スパン!と襖を開けると同時に四人が一斉に叫ぶ。


順に、土方さん、近藤さん、斎藤さん、沖田さん。


「……ご心配……おかけしました」


背中の痛みは酷いけど、幹部を相手に寝そべりながら対応するのは……と思い、起き上がろうとした。


「馬鹿野郎!寝ていやがれ!」


しかし、土方さんに妨げられてしまった。


でも……と抵抗心があったものの、起き上がっている時間と比例して背中の痛みはだんだんとひどくなるので、お言葉に甘えることにした。


「……申し訳ありません」


「いやいや。良かったよ、目を覚ましてくれて」


近藤さんが、とても優しい声で言う。


だけど、どこかぎこちない。


いつもの近藤さんのはずの優しい声も、どこか不自然だ。


だけど、私には思い当たることはなく、内心、首を傾げることしか出来なかった。



< 110 / 195 >

この作品をシェア

pagetop