真っ暗な世界で
重苦しい雰囲気のなか、土方さんが低く、唸るような声で私に聞いた。


「……お前、女……だったのか?」


あぁ、なんだ。そのことか。


傷の縫合をする時にでも、ばれたのだろう。


「はい」


特別隠すことでもないし、隠したところでなにか誤魔化せる訳でもない。


「…………へぇ、意外とあっさり認めるんだ?」


沖田さんが私を小馬鹿にしたように鼻で笑う。


「ってことは、君は間者?こんなにも僕たちを半年以上も騙せるなんて、そうとうな手練れだね」


沖田さんは言葉の棘を隠すことなく、容赦なく私へと投げ付ける。


間者と間違われても仕方ない。どんなに弁解しようとも、彼らを騙していたことになる。


そう頭では分かっていても、心はそうではないらしい。


沖田さんの言葉が私の喉のもっと奥を締め付けて、息が少し苦しい。


「性別を偽っていたことは謝ります。ですが、間者ではありません。それは山崎さんが確認したはずです」


「君ならいつでも長州と繋がれた」


真実を口にしても、沖田さんは聞く耳を持たない。


「…………」


違う。違うけど、それを証明するものがない。むしろ、監察方として、あったほうが困る。


何も言えない私は口を閉ざすしかなかった。


「……それは肯定ととっていいの?」


沖田さんが得意に鼻で笑う。


近藤さんも、斎藤さんも、土方さんもなにも言わない。私の出方を窺っている。


そこでも、黙らないバカが、一人いた。


「……ねぇ……じゃねぇ!!ハルは、間者じゃねぇ!!」


咲洲が大声を張り上げた。


その声は所々震えていた。


『違う!榛ちゃんはそんなことしない!!』


──やめて。なんで、こんなに被るの。


咲洲が夏希ちゃんに似ていることをはっきり認識すればするほど、咲洲の言動が夏希ちゃんと被って、私を苦しめる。


「まだ言ってんのかよ!!ハルは私を気絶したふりをしていた浪士から助けてくれたんだぞ!?」


「だから、なに?」


咲洲の必死な弁論も沖田さんは門前払い。


「仲間を斬るわけねぇだろ!100人だぞ!?」


『榛ちゃんが友達を見捨てるわけない!』


「春くんには、そんな非情さがあるんじゃないの??何せ、ここで一番、人を殺してるんだから……」


「ハルはそんな非情な奴じゃない!」


『榛ちゃんはそんな酷い子じゃない!!』


違う、違う違う違う。私はそんな良い子じゃない。非道だ。残虐だ。あなたが言ってるのは、私じゃない。昔の私だ。


昔の私はいないの。跡形もなく消え去ってしまったの。


それと一緒に消えてほしいのに。


夏希ちゃんは、本当は私に恨みがあるんじゃないの?だから、こんなに私を苦しめるの?


頭ごちゃごちゃ。何を考えればいいのか、わからない。


何を言うべきなのかもすべて、私の果てしない思考回路の片隅に流された。






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