真っ暗な世界で
こんなにごちゃごちゃになったのは初めてだ。


思考回路はどうすればいいのか、まったく見当もつかない。


ただ、分かるのは、咲洲がなにか言葉を紡ぐたびに夏希ちゃんが優しい悪魔の顔をして現れること。


それを止めるには……そうだ。咲洲が黙ればいい。


「ハルは私を守ってくれた!それだけでいい!私はハルを信じる!!」


「バカじゃないの?そんなの理由にならないよ」


「バカでもなんでもいい!!私はハルを信じる!!」


「……咲洲さん。黙って」


飛び上がった勢いでずっと喉の奥に引っ掛かっていた言葉を押し出した。


「じゃぁ、なんだよ!沖田は今まで見てきたハルが全部嘘だといいた……え?」


咲洲の最後の言葉で、あたりがしーんと静まりかえる。


つぎの言葉を紡ごうとも、たった一言二言話したのに、息切れがすごくてなにも言えない。


「……はぁ、はぁ」


「…………春?」


斎藤さんが私の異変に気付き、恐る恐るといった感じで話し掛ける。


それすらも、応じることが出来ない。


斬られた背中が今まで以上に痛む。熱い。


「…………私は、春じゃない、榛、です……」


「……同じことでしょ?なに……」


沖田さんは言葉を飲み込むしかなかった。


だって、私が







「春!!」








倒れたから。





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