真っ暗な世界で
部屋に戻り、ふぅ……と一息つくと、原田の話を思い出した。


『春は、あの晩、吐いてたよ』


あの春が、俺の知らないところで苦しんでいた。


それに気付くことが出来なかった自分に腹が立つ。


なにが有能な小姓だ!なにが強い奴だ!


……俺は、春が小姓の前に人間であることを忘れていたんじゃねぇかよ!!


あいつがあまりにも俺に忠実で、俺の思いのままに動くから、つい、勘違いした。


いつの間にか、忘れていた。


春が、生身の人間であることを。


「……ックソッ!」


我慢できずに床を殴りつけた。


ドンッ


虚しくその音だけがおれの部屋に響いた。




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