真っ暗な世界で
手をあげたのは咲洲だった。


春に罪悪感がある咲洲が名乗りでるのは特別予想外なことではない。


だが、その表情に俺は驚きと戸惑いを隠せなかった。


「……なんで、怒ってるの?」


「…………あんたら、ハルの何を見てきたんだよ」


怪訝そうに聞いた総司に、静かに唸るように言った。


「ずっと感じてた違和感がやっとわかった。……あんたら、信頼してなかったんだよ、ハルを。…………そして、ハルも。表面上は信頼しているようにみせて、どこかハルを疑ってた。ハルも、それでいいって諦めてた。」


咲洲が俺達をゆっくりと睨んで、静かに


「……は?」


「ハルを信頼してた土方も、ハルを知ろうとはしなかった。みたままを、ハルだと思った。違うか?」


「玲那に何が分かんだよ!」


平助が、好き勝手に言う咲洲にムッとした。


「じゃぁ、ハルの名字は!?ハルの出身地は!?ハルの本当の笑顔、みたことあんの!?みんな……なんにも……知らねぇだろ!!」


平助の言葉に火がついた咲洲は、激しい剣幕で俺達を見渡した。


「……お前らのほうがずっと長く居たくせに、知らねぇんだろ?……知りたいとも思わなかったんだろ?
信頼してたら、仲間だと思ってたら……相手を知りたいと思うだろ。知ろうとするだろ。
……それがなかった、あんたら幹部とハルの関係は深そうで、浅かったんだよ」


冷たい顔でそう突き放すと、咲洲は山崎と一緒に広間から出て行った。


「……なんなんだよ、あいつ」


静まり返った広間で、平助がやるせなさそうに頭を掻いた。


「……あいつの、言うとおりかもしれねぇぞ」


そんな平助をなだめるように肩を叩く。


「あほくさ。やってらんないね」


「おい、総司!」
 

嫌悪感丸出しで広間から出て行く総司を、近藤さんが引き止めるが、意味はなかった。


「……土方さん……」


永倉が俺を見る。その目はいつもは真っ直ぐ据わっているが、今は揺れていた。


きっと、不安なのだろう。


「……ほっとけ。今の総司は何言っても無駄だ」


咲洲の言っていたことは的を射てる。だから、こんなに重苦しく、全員が散り散りになるのだ。


今はそれぞれが一人になり、冷静に物事を考えるべきだ。


そう思った俺は立ち上がり、広間の襖を開けた。


「今日はもう寝ろ。こんなに遅いんじゃ、頭ン中整理出来ねぇだろ」


誰も反論はしなかった。無言でぞろぞろと部屋へと戻っていく。


近藤さんが、ちらりと俺を不安そうに見た。


大丈夫だ、と頷くと、近藤さんは安堵したような表情で俺に頷き返した。


どんなことも必死に乗り越えてきたんだ。


今回も、きっと、大丈夫だ…………。


暗示をかけるように目を固く瞑ってそう唱えた。


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