真っ暗な世界で
「グスッ………グスッ……あくま、かわいそう」


「あら、そうですか?」


くすりと笑うと、ゲンくんは私に抱きついて顔を埋めた。


「……だって、良いことしたのに、皆に嫌われて死んじゃうんだよ?」


小さな声でそう呟くゲンくんが可愛くて、私の胸の近くにある頭を撫でた。


小さい頃、両親にこの話を聞かされたとき、私も泣いた。ゲンくんと同じようにかわいそうだと。


でも、今、話をしてみれば、それだけじゃないような気がする。


「でも、悪魔は幸せだったと思いますよ」


「なんで?」


「最期は男の子が悪魔の死に泣いてくれたからです」


「友達が死んじゃったら泣くのは当たり前だよ」


「そうですね……。でも、悪魔はずっと独りぼっちだったから、そんな当たり前のことも幸せに感じるんですよ」


「ふぅーん……」


ゲンくんはよく分からないやと言うと私の膝からおりた。


「ねぇ!目、赤くない?」


先ほどまでは号泣と表現しても良いくらい泣いていたのに、今はもう、ヘヘッと笑っていた。感情がころころ変わる子だ。


「どうしてです?」


「だって、かくれんぼしてたのに目が赤いなんて変じゃないか……」


語尾が段々と小さくなり、恥ずかしくなるゲンくん。


確かに変だけれども……。


目が見えない私に聞かれてもねぇ……。


そう思いつつも、適当に目を細めて


「……大丈夫ですよ」


と言うと、そっか!と笑った。


「じゃぁ、行くね!またね!」


それだけ言うと、ゲンくんはまたパタパタと私の部屋から出て行った。


「はい。さよなら」


足音が聞こえなくなった頃、私は降っていた手をおろした。


小さい子と触れあうと、無意識にあの子を思い出してしまう。


「……夏希ちゃん」


あなたは、私を許してくれるのでしょうか?


あなたの輝く将来を奪った私を。


あなたは、私に願いました。


『自分の分まで生きて』。


それは私に課せた義務でもありました。


私が出来る、唯一の償いです。


でも、私には分かりません。


「……私は、何の為に生きているの」


あなたが死んで、あの地獄から出たあと、私は人間の愚かなところしか感じることが出来ませんでした。


それでも生きてこれたのは、あなたの言葉と両親のおかげでしょう。


私はずっと、あなたは私を許してくれたのだとそう思っていました。


でも、咲洲にあなたの面影を感じ、そうとは思えなくなりました。


どうしてもあなたが私に苦しめと言っているようにしか思えないのです。


もし、叶うのならば、


私は、あなたの本当の心を知りたい。



















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