真っ暗な世界で
『……な……つき……ちゃん?』


最初、何が起こったのか、分からなかった。我に返ったのは、ドサリと夏希ちゃんが倒れた音がしてからだった。


夏希ちゃんは胸のあたりをおさえて、苦しそうにしている。


その苦しみに比例するように広がっていく血だまり。


その全てに私の体は竦んだ。


『……は、る……ちゃ、ん……』


『夏希ちゃん!!』


夏希ちゃんに名前を呼ばれた時、私の体は動くことが出来た。


急いで夏希ちゃんを抱き上げる。


抱き上げたその体はあまりにも軽すぎた。


『……ごめ、んなさいっ、私が……』


私が思っていたよりもずっと、夏希ちゃんは衰弱していた。


その事実がさらに私を苦しめる。


『…しに、たく、ないよぉ……』


それは、さっきよりもずっと、ずっと弱々しい声で。死への恐怖で顔を歪ませていた。


夏希ちゃんがずっと、心の奥底の奥にしまってあった本音であることに、私の罪悪感はさらに増していく。


『わた、し、死に、たくな、いよぉ……』


『……ごめんな、さい……』


どんなに夏希ちゃんが死にたくないと私に訴えても、私には何も出来ない。私は無力なのだ。


私が夏希ちゃんと仲良くならなかったら、こんな風に夏希ちゃんは私を庇わなかっただろうに。


夏希ちゃんはひたすら死にたくないと願い、私はひたすらごめんなさいと謝った。


私が言いたいのはごめんなさいでも、仲良くならなきゃこんなことにならなかった、なんかじゃないのに。


ただ、最期に、大好きって言いたいのに。


とうとう、私の口から大好きという言葉は出てくることはなかった。










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