真っ暗な世界で
夏希ちゃんがなにも話さなくなり、やがて体も冷たくなった頃、男が動いた。


すっかり忘れていた。夏希ちゃんばかりに気を取られていた。


私ははっとして、男を見上げると、案の定、笑っている。


『榛ちゃん。君には感謝しているんだよ』


男は近くにあった椅子に座って、話し始めた。


『僕はずっと、夏希ちゃんを殺したかった。けれど、僕は真面目だからさぁ……夏希ちゃんが問題を起こさない限り殺せない』


ずっと気色の悪い笑みを浮かべながら話す男を、私は涙を拭って睨んだ。


何が真面目よ。真面目は人を殺したりしないっての。


『本当は分かっていたよ。楓花ちゃんが嘘をついてるって。けど、それを知らんぷりしたおかげで、夏希ちゃんが自ら身を捧げてきた!!』


男はこれほど嬉しいことはない、というようにケラケラと笑った。


『……私が、夏希ちゃんに助けを求めれば、夏希ちゃんは助けようとすることが、分かっていた……』


『うん!大正解だ!榛ちゃんは賢いね。君たちの姿を見るたび、仲がいいんだなと思っていたよ。出来れば君も殺したかったんだけどなぁ……』


男のその言葉に私は身を固くした。殺される、そう思った。


『でも、殺さないよ。僕は真面目だから、夏希ちゃんとの約束は守るんだよ』


『……約束…?』


『榛ちゃんを殺さないって。はぁ……僕も面倒なこと、約束しちゃったよねぇ。君も、もう6歳になるんだよ?これからが一番楽しみなのに』


あーぁ……とつまらなさそうにそう呟くと、男は立ち上がって私の目の前にしゃがんだ。


『誰に、夏希ちゃんは殺されたと思う?』


『……だ、誰って……』


私は面を食らいながらお前だ、と言おうとした。


その前に、男が私の耳に顔をよせて、言った。


『君だよ。榛ちゃん』


『…………っ!』


『勿論、僕が殺した。けどね、そのきっかけを作ったのは榛ちゃんだ。僕と共犯なんだよ』


『……や、やめて……ち、違う』


男の言う事を認めたくなくて。私は首を振った。


『違わない。違わないんだよ。君は僕と同じだ。ひ・と・ご・ろ・し』


















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