真っ暗な世界で
「いやぁぁぁあ……!」


叫んだのと同時に飛び起きて、目を覚ます。


荒い息を整えて、思考回路をしっかりさせるために首を数回振った。


ずいぶんと寝ていたらしく、この空気の匂いはゲンくんが来る頃だ。


夢……だったんだ。


ふぅ…と息を吐いて体を包むように顔を膝につけた時、天井から何かが動く気配がした。


注意もしていないのに、分かるくらいなら、大した間者ではないのだろう。


そう思いつつも、油断大敵ってことで、布団の端を探し、その下から刀を手にとった。


そして、そのまま壁まで下がり、立ち上がって、鞘を抜いた。


「……出てきてください」


私が天井に向かって言うと、気配は落下してきた。


「やはり、わかったか」


5歩先に聞こえる、男としては少し高い声。そして、特徴のある匂いと気配。


「……八番隊平隊士佐久田浩太朗ですね」


「……ほぅ。入隊の時にしか顔合わせしていないのだか……流石だな」


フンと鼻を鳴らして、得意気に言う佐久田。


入隊の時以来……。平隊士の名前や所属、特徴は入隊の面接の時に立ち会い、覚えたから、別に大した時間の幅ではない。


佐久田はなにをもって得意気にしているのかまったく理解出来ない。


「なんの用ですか」


身構えてそう聞いてみたけれど、大方は見当がついている。


私を殺すか、攫って拷問して情報を手に入れようとするか……二つに一つ。


「俺の上司がお前に会いたいのだそうだ」


佐久田は後者のようだ。


「あなたの上司というのは藤堂さんですか。それとも違う人間でしょうか」


「笑わせてくれるな。藤堂の訳がなかろう」


嘲笑うかのように笑った佐久田。


確信はしていたけど、はい。間者確定。


間者確定ということは、手加減をしなくていい。


ここのところ、動けもしていなかったから、軽い運動程度にちょうどいい。それに、ゲンくんが来る前にちゃっちゃと処理しちゃいたいし。


「佐久田さん。俺が隊士の間で何と呼ばれているか、ご存知ですか?」


殺る前に、少しだけ死刑宣告をしてみる。


未だに余裕そうな佐久田は、終始嘲りながら私の質問に答えた。


「無論。……土方の犬だ」


「正解です。陰で俺がなんと言われているか、知らないわけではないんですよ。だって、合っているんですもの」


「フン。認めたか」


「犬というものは非常に主人に対して忠義心の強い動物です。わかっていると思いますが、土方の犬は獰猛なんです。主人のためならば、自分が死ぬことも厭わない、そんな生き物です」


「……な……何が言いたい」


「そうですね……一言で言うならば『死ぬ覚悟は出来ているか』。ですね」


ニヤリと口角をあげてみせれば、佐久田の雰囲気は一変した。









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