真っ暗な世界で
その場にいた全員が、春の言葉を待つ。ハルは一歩前に出て、ゆっくりと口を開いた。


「……私の夢は、幸せな家庭を作ることでした」


………………………


……………………………………………ん?


待て待て待て待て。肩すかし感が半端無いんですけど。


そう思うのは私だけじゃないはずと周りを恐る恐る見てみる。


案の定、全員があまりに唐突な言葉にポカンとしていた。


だよなぁぁあ!わかるぞ、その気持ち!!


そんな私達の心情を知ってか知らずか、ハルはさらに続けた。


「ついこの前、私のことを好いているという人が現れました。私を普通の女として扱い、尚かつ細やかな気遣いができる、優しい人。私には勿体無い人です」


「……んで?」


沖田が、少し呆れ気味に催促する。


「お断りしました」


ケロリとして、そう言ったハルに戸惑う。


なんで?たった今、良い人だって言ってたんじゃんか。


「私は、私の夢より、あなた方を選びました。女としての幸せより、あなた方を選びました。
私の人生を、あなた方新選組と共に生きることを選びました。それでは、新選組への忠義になりませんか」


それから、しばらく誰も、何も言わなかった。


それは、ハルと新選組の腹の探り合いだったのかもしれない。


でも、少なくとも私は、力強く言った覚悟を決めたハルの瞳が、凄く綺麗で見惚れてた。


「少なくとも、長州の間者などということはございません」


それでも斬るなら、どうぞ。と瞼を閉じて両手を広げるハル。


「………そう。なら」


沖田はそう言うと、ハルに向かって走ってきた。刀を構えて。


でも、皆は止めない。


なんで止めないんだよ!!ハルが斬られるのに!!


ハルもハルで、沖田が近付いていることに気付いているはずなのに、避けたりする気配はない。


助けよう。そう思うのに、足が動かない。沖田が、間合いに入って、刀を繰り出した。


私は見ていられず、目を覆い、俯いた。





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