真っ暗な世界で
「………今回は、これで許してあげる」


沖田の、ハルが謹慎する前と同じ声が聞こえて、ゆっくりと目を開けた。


ハルを見ると、黒髪が数本宙を舞っていて、左頬には赤い血が細く線を引いていた。


「ほんとに裏切ったら、ほんとに殺すから」


久し振りにみた、沖田のいたずらっ子のようなあやしい笑顔。


ハルは黙って礼をする。


「……平助は?」


沖田が平助に刀を向けると、平助はポカンとした顔をして情けない声を出した。


「へ?」


「ハルちゃんが戻ること、賛成?反対?」


「そ…そんなの……」


平助は気不味そうに周りを目だけで見渡す。皆、顔に『賛成だ』と書いてある。普段、何を考えているか分からない斎藤までも。


「さ……賛成だ!べっ…別に、ハルのこと認めた訳じゃねぇからな!俺はまだ、あの事に納得してねぇんだから!」


……あの事?


平助がその三文字を言った刹那、皆の雰囲気が僅かに変わった。


「……取り敢えず、ハルくんの謹慎はとく!これでいいな?ハッハッハッ」


近藤さんがその雰囲気を振り払うように豪快に笑う。そのおかげか、雰囲気は明るくなり、皆笑う。


「しかし、傷はまだ完全に癒えていないからな。当分は雑用をしてもらうが、いいね?」


「はい。局長」


近藤さんの言葉にハルは深々と礼をした。


この2週間、どんなに私が頑張っても、見ることの出来なかった沖田の笑顔を、ハルはすぐにやってのけた。


その瞬間、私は確信した。


あぁ、沖田はハルが大切なんだ、と。


私じゃない。ハルに、心を許しているんだ。


心臓が、ちくんと音を立てて痛んだ。


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