真っ暗な世界で
「おい、坊主!言っとくけど、私はハルより年下なんだからな!」


「へぇ〜!そうなんだ!顔が老けてるだけなんだね!」


「ふけっ……!?」


オバちゃんと言われ、さらに顔が老けていると、とどめを刺された咲洲はショックで言葉を失った。


「ゲンくん、ありがとうございます。あなたがオバちゃんに教えてくれなかったら、私は死んでいたかも知れません」


オバちゃんをわざと強調すれば、咲洲の雰囲気はどんどん暗くなっていく。


「そして」


咲洲に注意がいっているゲンくんをこちらに向けさせるために、少し大きめの声を出して、ゲンくんを抱きしめやすいように、しゃがんで身体を安定させた。


「ゲンくんには、怖い思いをさせてしまいましたね。申し訳ありません」


できる限り優しく、穏やかな声で安心させるように言って、口角を少し上げる。


私の言葉なのか、雰囲気なのかは分からないが、何かしらに感化されたゲンくんは徐々に嗚咽を漏らしていく。


「……おねぇぢゃんに……あいにいごうとしたら、い、いぎなり……刀がどんできで……ごわかったぁ……」


嗚咽を我慢しているらしく、ところどころ、声がくぐもる。


そろそろ潮時だろうと、両手を軽く広げて、ゲンくんにおいで。と囁く。


ゲンくんは私に抱きつくやいなや、堰を切ったように大声で泣き始めた。


慣れというのは恐ろしいもので、いつの間にか私は、刀が向かってくる生活は当たり前になってしまった。


でも、この子は違う。


私のような四六時中襲う、襲われる関係には縁がない生活をしていたのだ。小太刀と言っても、いきなり目の前をよぎったものに恐怖を抱かない訳がない。


申し訳ないことをした、と思いつつ、ゲンくんの背中を一定のリズムで軽く叩き、一定のリズムで少しだけ揺れる。


少しでも、彼の心が落ち着くように努めた。





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