真っ暗な世界で
30秒ほど抱きしめられると、土方さんはゆっくりと力を緩めて、私から離れていった。


私の肌に土方さんの体温が残って、吹き抜ける風が冷たい。


「……早速で悪いが、茶を淹れてくれ」


土方さんの足音が2、3歩分鳴り、スッと襖を開ける音がする。


どうやら、ここは土方さんの部屋の近くらしい。


今の位置が分かれば、台所まで行くのは簡単だ。


私は小さく礼をして、土方さんの部屋を通り過ぎた。


途中に井戸で必要な分の水を汲み、零さないよう注意を払いながら歩く。


「……春」


台所に着くが、どうやら先着がいたようだ。


「…………斎藤さん」


「……茶、か」


「はい」


「悪いが、俺にも淹れてくれないか」


「はい。構いませんよ」


少し多めに水を汲んでおいて良かったと考えていると、斎藤さんの気配が真正面に来る。


そして、斎藤さんの手が水が入った桶をもつ私の手に触れた。


「重いだろう……持つ」


「ありがとうございます」


首を縦に折ると、私の手から桶の重さと斎藤さんの手の温かさが消えた。


「水ならば、水瓶に入っているだろう。何故、わざわざ井戸で汲む?」


「……気まぐれ、です」


「珍しいな」


斎藤さんがコポコポとやかんに水を入れる音がして、その間に私は火をおこし、温度を調節する。


水が沸騰するまで、特にやることはない。


ボーッとしていると、斎藤さんに話し掛けられた。


「久しいな」


「はい」


「春がいない間、総司は荒れに荒れていた」


「大変ですね 」


「全くだ。……危ない真似をして。肝が冷えた」


「申し訳ありません」


そこまで会話をして、気が付いた。


斎藤さんは、咲洲と同じく心配してくれたのではないだろうか。


「心配……してくださっているのですか」


「……っ!?あ……当たり前だ!!春はむ、無茶ばかりするからな……」


率直に聞くと、斎藤さんは少しどもりながら肯定した。


それが何故か嬉しくて。


「ありがとうございます」


素直にお礼を言うと、斎藤さんは黙ってしまった。


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