真っ暗な世界で
ポコポコと水が沸騰した音がして、火を消した。


火の扱いだけは、細心の注意を払わなくてはならない。一度火事になれば、この屯所など一瞬で燃えカスに変わる。


「火、消えてますか」


「あぁ。消えている」


目の見える斎藤さんにきちんと消化したかを見てもらうと、お茶っ葉を急須にいれる。ちなみに、玄米茶だ。


お茶っ葉の香りが鼻をくすぐる。


この香りが、心を穏やかにする。


お茶っ葉を入れれば、沸騰したばかりのお湯を急須に入れた。


「玄米茶か」


「お嫌いでしたか」


心の中で30秒を数えながら、斎藤さんの呟きに答える。


「温度の高い湯でも渋みなどが強く出ないからな。嫌いではない」


「良かったです」


よし、30秒経った。


一度湯呑みの位置を確認してから急須を持ち上げる。


ほとほとと湯呑みを落ちてゆく音と香りが心地いい。


時々、湯呑みに手を当て、熱さでどこまで入っているかを確認する。


「どうぞ、斎藤さん」


「あぁ。礼を言う」


コトリと湯呑みを持ち上げて、斎藤さんの気配がするほうに湯呑みを向けた。


手から湯呑みの重さと熱さが消えた。


斎藤さんが受け取ったということなのだろう。


「では、私はこれで」


一度だけお辞儀をして、土方さんの分のお茶を持って台所から出た。














< 167 / 195 >

この作品をシェア

pagetop