真っ暗な世界で
なにがなんだかよく分からないけれど、藤堂さんは何か勘違いをしているらしい。


気になることがあるなら、言えばいいのに。


明日でも良かったが、問題を明確に出来ないまま明日に持ち越すのはモヤモヤとして嫌だ。


ならば。


「待ってください」


『あの事』やらを吐き出させればいい。


私の声に、藤堂さんの足音は止まる。


「あの事、なんて曖昧な言い方では分かりません。きちんと教えてください」


「………………」


私は正直に訊いたのに、藤堂さんは何も返さない。


私には、他にもやることがある。夕餉の支度に山南さんの監視。身体が鈍っているから、寝る前に軽く100本ほど素振りもしたい。


要するに、この沈黙を続ける程、暇じゃない。


「……言いたい事があるならはっきり仰ってください。それでも男ですか」


「男だよ!!」


「ならば」


言えるでしょう、と促せば、藤堂さんはやっと話し始めた。


「……荒木田。荒木田の拷問」


一瞬、誰のことだか分からなかった。


彼は確か……私の初めての拷問相手だ。


「あぁ……荒木田ですか」


「あぁ……って!他になんかないのかよ」


「他に?」


「……あんなに酷いことをして、申し訳ない……とか」


藤堂さんの言葉に耳を疑った。


酷いこと?拷問をしたこと?それとも、その方法?


それとも……床一面を荒木田の血で染め上げたこと?


私が拷問したのは、土方さんに任せてもこれ以上の成果は出ないと思ったから。


方法は一番私の体力の消耗が少なく、なおかつ、相手に多大なダメージを与えられるようなものを選んだ。あれは拷問だ。効率的なやり方をして何がいけないのか。


床を血染めにしたのは結果論。


「間者は、あの程度の拷問は覚悟すべきです」


それに、敵の領地に入るんだ。バレたらあの位のことをされても仕方ない。


「あの程度って……!! もし、お前が同じ立場でも言えるのかよ! 」


「あれをされるのは嫌ですね。でも、見破られたのならば仕方ない。私が未熟だっただけです」


「そんな……。皆、ハルと同じ考えしてねぇよ……」


弱気になったのか、語尾が小さくなる藤堂さん。


まったく。この人は誰にでも甘い。


「……それでは、藤堂さんならばどうしますか」


「……え?」


「敵の陣地に潜入して、見破られ、拷問されて洗いざらい話せと言われた。話さなければ、更に酷い苦痛が待っている、と言われたら」


「は……話すわけねぇじゃん!」


「そうでしょう。荒木田もそうでした。私は、一応許可を取ったんです。何ら問題はないでしょう」


そう言えば、藤堂さんは気まずそうに黙ってしまった。












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