真っ暗な世界で
『土方さん。失礼します』


『あぁ!?ガキが入るとこじゃねぇぞ!!』


土方さんの制止も聞かずに私は蔵の中に入る。


男の人の汗の臭い。それに混じった血の臭いと肉が焼けたような臭いが混ざり、予想以上に臭いがきつい。


初めての臭いに、思わず顔をしかめた。


土方さんにそれを見られたらしく、土方さんは私を追い出そうとする。


やっぱり、優しい人。


『わかったろ!!さっさとでて……』


『土方さん。刀を貸してください』


『…………は?』


土方さんは私の言っていることが分からないようで、素っ頓狂な声を出す。


『俺が、やります』


私は土方さんが分かりやすいように言い直し、土方さんの気配がする方へと進んで、左腕を探した。


『あ……ヴぅ……』


異臭が充満するこの部屋で、荒木田を探すことに苦労していると、荒木田が小さく呻き声をあげた。


私がいる位置より、やや東側。10歩程度かな。


『春!!だめにきまってんだろ!』


私が荒木田がいる方向に歩き出すと、土方さんに止められた。


後ろから、腕を掴まれて。


後ろから。


一瞬、土方さんをあの男と錯覚して、身体が強張るが、それを隠すために、ゆっくりと土方さんの方を向く。


私が完全に土方さんに向き合うと、ふと私の腕を掴む力が緩まった。


あと、ひと押しだ。ひと押しで、土方さんはおちる。


そんな根拠のない確信に近いものを感じながら、そのひと押しを言葉にした。


『これ以上、土方さんがやっても、土方さんの体力の無駄です』


私の腕を掴む土方さんの指が、少しだけピクリと反応する。


そして30秒ほどすると、ふっと土方さんの手の温もりが私の左腕から消え、土方さんの気配が蔵の出口へと遠ざかっていった。






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