真っ暗な世界で
バタン、と蔵の扉が閉まる音がして、口角を少し上げる。


『……さて、荒木田さん』


『……は、春……?』


『あなたを拷問するための準備がまだです。少しだけ休んで下さい』


荒木田を安心させるように、目を三日月に細め、口角をさらにあげる。


カチャン、カチャンと金属が擦れる音がする。荒木田は鎖のようなもので拘束されているのか。


『き……貴様、そんな……笑い方……だったか……?』


まるで化け物を見たような言い方をする荒木田。


『……嫌ですね。いつもと変わらないですよ』


いつもと変わらない、顔の筋肉の使い方なのに、どうして荒木田はこんなに怯えているんだろう。


そんなことを考えていると、キィと蔵の扉が開く音がした。


『ハールくん。持ってきたよ』


『ありがとうございます、沖田さん』


『まったく……。僕を使うなんて、君くらいだよ』


呆れた様な、感心した様な声で、怒ってはいないのだと分かり、軽く会釈だけする。


『こんなの、どう使うのさ?下駄と目隠しなんて』


『私に下駄をください。あと、申し訳ありませんが、その布で荒木田に目隠ししてください。それと足枷も外して、手錠は背で』


『はぁ……。がっつり僕を使う気だね?良いけど、一部始終観させてもらうから』


『どうぞお好きに』


存在感の大きな傍観者が増えるだけ。なにも計算外なことはない。むしろ、何かあった時に手助けしてもらえるので助かる。


『はい、下駄』


沖田さんは私の両手をとって、下駄を置く。


私の手に収まらないほどの下駄を、慎重に履いた。


『なっ……なんだよ!……く、来るな!』


『はいはーい。うるさいな。少し黙っててよ。あ。ほら、目隠しできないじゃん』


沖田さんが準備してくれるうちに、私は大きな音が出る歩き方を試していた。


____本当に、いいの?


突然、私の良心が私に問い掛けてきた。


まだ私にも良心があったんだと安心すると同時に、邪魔だなとも思った。


今更、何を言い出しているだか。


もう、戻れない。荒木田をただ粛清してしまえば、せっかく手に入りそうだった情報も全て闇に葬り去られる。


土方さんもダメだった。なら、私が。私がやるしかないの。


____私の、心は?


うるさいな。私の心なんて関係ないの。


____嘘つき。手、震えてる。


自分の良心に言われて、自分の手が震えていることに初めて気が付いた。


……情けない。




















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