真っ暗な世界で
『荒木田さん。何も見えないでしょう』


『あ、ぁ……』


『真っ暗で、光なんてものはなくて、分かるのは、音と気配だけ』


『貴様、何が、言いたい』


『あなたが今、見ている景色が、いつも俺が見ている景色です』


『ちょっと、ハルくん!?』


暴露してはいけないことを言った私を咎めようと、沖田さんが私の左腕を掴んで制止する。


もう、止まれない。


私は沖田さんの手を振り解き、更に続ける。


『つまり、俺は、目が見えません』


『もう……。本当に知らないから』


沖田さんの呆れたような声を聞き流しながら、1を表すために、右手の人差し指をたてる。


『ここで、一つ。断っておきたいのです』


『な、んだ』


『俺の拷問は、実に危険です。一歩間違えば、あなたは死にます。互いに目が見えていない状態で、俺はあなたを気まぐれに刀で切り刻んでいきます。お覚悟を』


『そんな、の……許されると、思うのか……!』


『拷問に許す許されるもないでしょう。では、始めます』


カッ……カッ……カッ……と一定の歩調で荒木田の気配の方へ近付いて行く。


私の足音が近くなるに連れて、荒木田の息遣いも荒くなる。


『ま、まってくれ……!ヒィッ……ヒッ……』


荒木田の気配が1歩半に近づくと、カタリ、と下駄を最大限に鳴らせて止まった。


刀を持っている左腕を、振りかぶることなく、斜め下に押し出す。


刀の刃が柔らかいものにあたり、プツリと切れる音がする。


スーッと更に下にずらすと、荒木田は悲鳴を上げた。


『ヒィッ!!い、いだ、ぁぁぁあ!!』


荒木田の悲鳴を聞いて、私は刀を引く。


そして、また、下駄を鳴らしながら歩き出した。








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