真っ暗な世界で
足枷がなく、幾分か自由に移動出来るようになった荒木田は、私の刀を避けようと荒い息遣いでズリズリと体を引きずる音を立てながら蔵を移動する。


移動されたところで、気配も何もかもが丸わかりなので、問題はないのだが。


『……話して貰えませんか』


極力、感情を押し殺した無機質な声で荒木田に穏やかに問い掛ける。


『……い……いや……だ』


『そうですか、残念です』


カッ……カッ……カッ……カッ……


わざとらしく、荒木田の気配の周りを歩いてみれば、荒木田は分かりやすく息を乱す。


歩いたまま、荒木田の気配のする方へ、少し力を入れて刀を突き刺す。


『ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁあ……!!』


私が歩くことで、刀がずれていき、斬れていくらしい。今までの比じゃないの悲鳴が響き渡る。


この悲鳴では、蔵の外まで聞こえただろう。


人が来ないようにとせっせと蔵の周りを掃除した、私の苦労はどこにいったのやら。


ぼんやりとそんなことを考えながら、荒木田には悪魔の囁きをする。


『痛いでしょう、恐ろしいでしょう?……言ってしまえばこれは終わります。楽になりますよ』


出来るだけ、優しく、穏やかに。かえって怖くなるほど甘ったるく。


悪魔の囁きはいつでも抗う気がなくなるほど甘い蜜が塗ったくられている。


『……いわ、ない』


『残念です』


中々しぶとい荒木田に面倒臭いを通り越して呆れ、更に呆れを通り越して感心した。


この男は、何をしたら堕ちるのだろう。


そんな場違いな探究心まで湧いてくる。


それについてきた自分への絶望は知らん振りをする。


今、自分に絶望している場合じゃないから。


『……ヒィッ……ヒィッ……』


私の足音に合わせて怯える荒木田に、若干ながらも手応えを感じながら、刀をまた気配のする方へと軽く突き刺した。


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