真っ暗な世界で
荒木田が最初に口を割った名前は、楠小十郎だった。


でも、仲間は他にもいるはずだ。全員吐き出させてやる。


そう意気込んでみたものの、私もそろそろ新鮮な空気を吸いたい頃だ。つかの間の休憩に、と口角を上げた。


『ありがとうございます。では、少し休憩にしましょうか』


蔵から出て、蒸し暑さに火照った身体を涼しい風が優しく撫でる。


深く深呼吸をして、土方さんのところへ向かおうと、歩き出そうとすると、後ろから声がかかった。


『春くん。きみ、とてつもなくえげつないね』


沖田さんの声音は言葉とは裏腹におちゃらけていて、身体を反転させ、会釈した。


『お褒めの言葉ありがとうございます』


『褒めてないけどね! これ以上視たら、ご飯食べられなくなりそうだから、撤退するよ。じゃぁね』


徐々に遠のいていく沖田さんの足音を聞きながら、私も土方さんの部屋へと歩き出した。


そうか。沖田さんも逃げ出したか。


ただ、呆然とそう思いながら歩いていると、土方さんの部屋に着く。


『榛です。失礼します』


一言言ってから襖を開け、二、三歩前に出て荒木田が吐いた仲間を報告した。


『土方さん。荒木田が仲間の一人の名を吐きました』


『……なっ!?』


土方さんはとても驚いた様子で私の報告を聴く。


『楠小十郎です』


『……承知した。すぐに原田に殺らせる』


『では、俺はまた……』


『まだいるのか?』


私が土方さんの部屋を後にしようと立ち上がろうとすると、それに重ねるように土方さんが私にそう問うた。


『複数います。出来れば今日中に全員の名前を吐かせたいですね』


心底面倒だ。だけど、今やらなければ必ず手遅れになる。


真顔で言おうと努めても、どうしても顔が苦渋に歪んでしまう。


その顔を、土方さんにあまり見て欲しくなくて、私は踵を返して蔵へと戻っていった。


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