真っ暗な世界で
蔵へ戻れば、意外な人物の気配がした。


『……藤堂さん』


その気配の持ち主の名前を呼べば、ひぃ、と小さく悲鳴を漏らした。


『は……春。あ、あのさ……これ、誰やったの』


藤堂さんは震える声で、私に問う。


その声には複数の感情が入り交じっていた。


怯え、恐怖、怒り、衝撃、悲しみ、戸惑い……。


これらから考えられる藤堂さんの「これ」は八割方荒木田のことだろう。


『俺、ですが』


少しだけ首を傾げて、はっきりと言えば、藤堂さんが息を呑んだことがわかった。


でも、息を呑んだのも一瞬で、すぐに怒気を発して私の服の襟を掴み上げた。


『お前っ……!よくあんな、非情な真似を……!荒木田は殺したんじゃないのかよ!俺、聞いてねぇぞ、拷問するなんて!』


『えぇ。言う必要がありませんから』


『必要がないって……!』

 
『もし、あなたに言ってもどうしていたんですか?荒木田を庇いましたか。壬生浪士組がなくなるとしても』


『……っ!』


私が挑発ともとれる発言をすれば、藤堂さんの雰囲気がカッと熱いものに変わる。


あ、怒っている。


藤堂さんの感情を理解すれば、彼の性格からこれからの行動はすぐに分かった。


これは……殴られる。


その証拠に、現に今何かが私に向かって空気が動いている。何かが、ではなく、恐らく拳が、だけれど。


その気配と空気を読んで、その拳を避ける。


『春、てめぇ……!』


避けてるんじゃねぇ、と彼の怒気は更に増した。


『避ける』。この方法は得策ではなかったらしい。


しかし、黙って殴られろ、というのも些か理不尽ではないだろうか。









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