真っ暗な世界で
『落ち着いて下さい。頭に血が上っていればまともに話が出来ません』


いつもの無機質さが出ないように、なるべる温かく、穏やかに話し掛ける。


『お前がっ……!おかしいんだよ』


藤堂さんは拳を下ろす気配がない。息継ぎの間に拳を振り下ろしてくる。


これは、彼の気が済むまで付き合わなければならないか。


そう考えて、無言で藤堂さんに続きを促した。


『すんげぇ叫び声聞こえて来てみたら、死んだはずの荒木田が生きてるし!床も壁も血塗れだし、荒木田はすげぇ怯えてるし。
それで、お前には返り血ひとつついてなくて、さも当たり前のように自分がやった、なんて!なんなんだよ、お前!ほんとに人間なのか!!』


息継ぎもなく、ただ感情の赴くままに叫び続ける藤堂さんの声と雰囲気は泣いているように思えた。


『春が怖えよ……!人形みたいだ。なんの感情もなく残酷なことが出来る、ただの人殺しの人形みたいじゃないか……』


やがて藤堂さんは拳を振り下ろすのを止めた気配がした。その代わりに聞こえてきたのは、小さな嗚咽。


藤堂さんは、泣いているのか。


『藤堂さん……』


『……っ!触んな!!』


無意識のうちに藤堂さんの気配の方へと伸ばしていた手を藤堂さんに思い切り弾かれた。


油断していた痛みに、一瞬だけ顔を歪める。


『俺は認めない。春が、人形が俺達壬生浪士組の仲間だなんて、認めない』


冷たくそう言い捨ててパタパタとここを去っていった藤堂さんに、心の中で話しかけた。


人形、ですか。あながち間違っていないかもしれません。


でも、人形だとしたら、私は欠陥品です。


本物の人形ならば、良心との葛藤も、昔の恐怖に縛られることもなかったのに。










< 182 / 195 >

この作品をシェア

pagetop