真っ暗な世界で
荒木田への拷問は夕方には終わった。


額から流れる汗を拭って、蔵から出る。


夏の涼しい夕方の風が私の熱をするりと下げていく。


汗で着物がはりつく感覚がとても気持ち悪い。


私が蔵から出る前に、夕餉は終わっていたらしく、私が夕餉を作ることはない。


身体、拭こうかな。


そう思って、井戸へと歩き出す。


本当はお風呂に入りたいけれど、まだ誰か入っているかもしれない。それに、私の火照った身体は涼しさを求めていた。


井戸に行く前に、自分の部屋に着替えと手拭いをとりに戻った後、気配に気を付けながら井戸へと向かった。


パシャリ、と水を露出した上半身にかける。その冷たさに一瞬、身構えたけれど、一つ溜息をつくと、妙に落ち着いた気分になった。


次に手拭いを水に浸して、肌を軽く擦れば、汗による不快感もなくなっていく。


ある程度全身を拭き終われば、近くに置いてあった着物に着替えようと腰をあげた。


が。突然、昼間の藤堂さんの言葉が脳裏を過ぎった。


『俺は認めない。春が、人形が俺達壬生浪士組の仲間だなんて、認めない』


その言葉の意外な重さに、思わず腰が下がっていき、元の膝立ちの状態へと戻っていく。


上、着ないと。風邪ひく。


何も着ていない上半身は、いくら夏でも良くないと分かっているが、手が、腕が。身体が、言うことを聞かない。


『春が怖えよ……!人形みたいだ。なんの感情もなく残酷なことが出来る、ただの人殺しの人形みたいじゃないか……』


人形なんかじゃない、私は。人間だ。人形なんかじゃない、絶対に。


瞼を固く閉じて、深呼吸する。とたんに、荒木田の悲鳴が私の頭の中で反芻する。


「うっ……」


それに吐き気がして、咄嗟に口を覆うけれど、吐くのも時間の問題。


井戸のある庭の端に行って、嘔吐した。










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