真っ暗な世界で
労いの言葉がこんなに違和感を抱かせるものなのかと疑問を抱きつつも、気のせいだろうと片付けた。


「あ、春!これは誰の膳なんだ?適当に持ってきたけどよぉ、分かんねぇんだ」


ドタバタと荒い足音で広間に入ってきて私に問う永倉さん。


「永倉さん、ありがとうございます。私に渡して下さればどなたのか分かります」


永倉さんに軽く礼をし、手を伸ばして足を踏み出した瞬間


「おう!あ、ちょっと待て!……よっと!」


慌てたように彼に制止され、止まると、今度はあちらから私に気配が近づいて来る。


ピタリと気配が止まったので、手を伸ばすと、その手をグイッと掴まれ、何か……お膳を握らされた。


「……ありがとうございます」


「良いってことよ!」


永倉さんのさりげない心配りに気付き、それに礼を言うと、永倉さんは少し自慢げな声音で返してきた。


まぁ、それは置いといて。


この重さは……永倉さんか藤堂さんもしくは局長。


お膳を床に置いて、触って一番大きなお碗を持ち上げて軽く上げ下げする。


うん、このご飯の重さは藤堂さん。


そう自分の中で決定すると、お碗を戻してお膳を持って立ち上がる。


「これは、藤堂さんのお膳です」


「お、俺の!?」


今の今までずっと沖田さんとピーチクパーチク小競り合いしていた藤堂さんが驚いたように反応した。


「……じゃぁ、俺持つ」


戸惑いながら藤堂さんはそう言うと、やはり荒く足音を鳴らして近づいて来てお膳を取り上げる。


「平助」


その幼子のような反応に原田さんは困った兄のようにその名前を呼ぶ。


「なんだよ、佐之さん」


「まったく……ほんとに困った奴だなぁ」
















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