真っ暗な世界で
「そうですか。ではお言葉に甘えて」


「はい。私のわがままを聞いてくださってありがとうございます」


「いえ……」


ひときしりの会話が終わり、沈黙が訪れる。


土方さんに頼まれたからには何かを聞き出さなくてはならないのだが、山南さんは聞いて素直に話してくれるような御仁ではない。


こんな沈黙も大切にして、あちらから話させなければならない。


しばらく続いた沈黙を破ったのは山南さんのほうだった。


「春さんと藤堂くんとは……中々馬が合わないようですね」


「否定は、しません」


「藤堂くんは……とても真っ直ぐな子です」


「……はい」


山南さんが懐かしむように言った言葉に私は同意した。


さらに続けて藤堂さんについて独り言のように呟いていく。


「しかし、真っ直ぐすぎる。あれではこの世の中を立ち回ることは出来ません。しかし、そんなところも彼が愛される理由なんでしょう。私達にはちと眩しい光のようにも感じることもあります」


『私達』。それは明らかに私に向けられた言葉だった。


山南さんと、私。複数を指す『私達』は、この二人しか指していないように思えた。


「藤堂さんは……甘いです。砂糖菓子より甘い。敵である長州の人間にも情をもちます」


また私も、ぽつりと独り言のように呟いた。


「ふふっ……そうですねぇ。砂糖菓子より甘い、ですか」


表現が面白いですね、春さんは。と山南さんは静かに笑う。


「私は砂糖菓子の甘さはさりげなく優しくて好きですよ」


「この時代に甘さなどは必要ありません。幹部ならなおさら、長州の人間に厳しくなければなりません」


「貴女はこの時代の人ではないのに、この時代の人よりも厳しいことを言いますねぇ」


嫌味などではなく、少し困ったような声音。


「まぁ、それも一理ありますね。彼の優しさは時に甘さとなります。中途半端な優しさは誰も救いません」


朗らかに言いながら、その言葉には少しの刺を含ませて。山南さんは少し懐かしそうに、そして嬉しそうに声音を僅かに上げて続けた。


「でもね、私はその甘さともいえる優しさに救われたんですよ」




 


















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