真っ暗な世界で
疑惑は不穏の種だ。


一度疑惑が生まれてしまえば、完全に消えることはなく、永遠と育ち続ける。


そして、疑惑が芽を出し、花を咲かせてしまえば……。


この時代で、疑惑の種をまくことは、自分の首をしめることと同意義。


山南さんは、それを誰よりも知っているはずだ。


理解しているはずなのに、何故、わざわざ疑惑を生むようなことをしているのだろうか。


それに、山南さんの雰囲気も少し、違う気がした。


微かに、だが、確かに、山南さんの纏う雰囲気は歪んでいた。


土方さんに報告しなければ、と足が先を急いだ。


「土方さん。榛です。夜分遅く申し訳ありません」


「いや、平気だ。入れ」


私は指示を受け、土方さんの部屋に入った。カタン、と筆を置く音が聞こえる。今の今まで書類を書いていたようだ。そこに彼の多忙さが窺えた。


「山南さんの件です」


「あぁ。どうした」


「『回りくどいことはせず、直接来るように』との伝言です」


「……チッ。気付いてやがったか」


「山南さん曰く、広間で食事を取らないのは『性に合わなくなったから』だそうです」


「んなもん、怪しいだろ」


少し苛立たしげに言うと、土方さんは黙り込んでしまった。恐らく、山南さんの言動から推察しているのだろう。


「……分かった。榛、テメェはもう寝ろ」


一通り考えをまとめたらしい。土方さんは少しすっきりした声音で私にそう言った。


「はい。お休みなさい」


「おう、お休み」


お辞儀して就寝の挨拶をすると、土方さんからもぶっきらぼうに返ってきた。私はそのまま部屋を出て、自室に向かった。


土方さんは休まないのか不安なところだが、彼も大人だ。自分の限界くらいは知っているだろう。











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