真っ暗な世界で
翌日。私は鈍った身体を取り戻すため、道場で竹刀を握っていた。


無心で振り続けて300本。はぁはぁと息が切れてきた頃。ガタリ、と道場の西南の方角から音がした。誰だ、と思いはするが気配で大体は見当がついている。


「藤堂さんですね」


物音のした方に向かって、声をかける。実は、かれこれもう10分程度そこにいるのだ。


「…………」


確かにそこにいるはずなのに、すんとも反応しない藤堂さんにもう一度声を掛けた。これで反応しないのならば、無視に徹しようと決めて。


「…………何用でしょうか」


「…………」


彼は黙ったままだ。仕方ない。決めたとおり、無視に徹しようと竹刀を振り上げた時、息を吸い込む音が聞こえた。


「……俺、会った瞬間から、お前のこと嫌いだった。なんでこんなに嫌なんだ、って思うくらい、お前のこと……苦手だった」


絞り出したような小さく、頼りなさ気な声だったが、それでも私にははっきりと聞こえて。私は竹刀を持っていた腕を下ろし、棒立ちの状態で彼の話を聞くことにした。


「俺より年下のくせに、考えは大人びてるし、笑わねぇし、泣かねぇし、怒らねぇし、強いし。いっつも能面で無愛想。そもそもあんまり喋んねぇし、喋ったと思ったら、必要最低限のことしか話したがらないし、世間話をしても返事は『そうですか』の一択だし」


「俺らが新選組って名前をもらった時も、皆大はしゃぎして、土方さんでさえ飲みに飲んでたのに、お前だけは普段通り、俺らのどんちゃん騒ぎを眺めてる。まるでお前だけ、別の世界にいるみたいだ。決定的にお前が嫌いになったのは荒木田のことだ。あんな凄惨なことをするお前は人間じゃないと思った。お前は人の皮を被った獣だと本気で思った」


せきを切ったように私への不満を口にしていく藤堂さん。私はそれを黙って聞いていた。



 












< 193 / 195 >

この作品をシェア

pagetop