真っ暗な世界で
「……だから、お前が荒木田を拷問した夜、吐いていたのを佐之さんから聞いて信じられなかった」


まさか、あの場面を原田さんに見られていたなんて。


少し顔を上げて驚く私を知ってか知らずか、藤堂さんはもっと私を驚かすことを言った。


「お前もちゃんと感じてんのかなって思った。ただ土方さんの人形じゃないんだって、俺、少し……なんていうか、嬉しかった」


「うれ、しい……?」


予想しなかった『嬉しい』の一言に激しく動揺した私は、その動揺も隠せず、藤堂さんの言葉を繰り返した。


「でも、昨日聞いたら、お前は普段となんにも変わらない。ほんとのお前が分んなくてイライラした。だから、俺、ほんとのお前を知りたい」


「本当の、私……」


本当の私を知ってどうするの、軽蔑するの?同情するの?嗤うの?


私こそ、本当の藤堂さんが分からなくて、その動揺は表にでて、竹刀を落としてしまった。


パンと竹刀が床に打ち付けられる音、コロコロと床に転がる音。その音がした瞬間に、藤堂さんの足音は一気に私に近づいてきた。そして、私の手を取って、言った。


「ハル!ホントのお前を、教えてくれ!」


わからない。何故そんなに私のことを知りたいのか。私に、そんな価値があるのだろうか。全て見捨ててその犠牲の上に生きてきた私に、なんの価値があるのか。


分からない。藤堂さんの本音が分からない。


いや、彼は本気だ。嘘なんて、私にはすぐに分かる。分かるから、彼が嘘を言っていないのが分かるから、困るんだ。


「……私こそ、あなたが分からない」


「え?」


「私を知ってどうするんですか。軽蔑するの?同情するの?嗤うの?」


「……ハル?」


「大体、咲洲さんもそうですが、私を知ることに何の価値があるんですか。全部見捨ててその犠牲の上に生きてきた私に、なんの価値が、」


「おい!ハル?」


藤堂さんに呼び掛けられて、ハッとした。


私は、何を言っているんだ。


その動揺が伝わったのか、藤堂さんは恐る恐る言葉を発した。


「……今のが、ほんとのお前?」


何も言わずに首を振り、藤堂さんの手から離れようとする私に、藤堂さんは私の手を握る手を強くしてさらに自分にぐいっと寄せた。


「逃げるな、教えてくれ」


やめて、入ってこないで。私の中に入ってこないで。これ以上、私を乱さないで。お願い。


「……やめてください。お願い。やめてください」


「嫌だ。やめない。お前が教えてくれるまで」


「普段は人に甘いくせに、私には厳しいんですね」


「うん。お前のこと、まだ嫌いだからな」


「そのまま嫌いでいいですから」


「やだ。俺が嫌だ」


「身勝手です」


「だって俺、6番隊組長だし、お前より偉いもん」


「横暴ですし、私は土方さんの小姓です」


「お前あれだよ、もう『私』って言ってる時点でかなり動揺してんだろ?」




































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